TYO:Hi-STANDARDと音楽の力

Hi-STANDARD(通称ハイスタ)というバンドをご存知でしょうか。1991年に結成されたこのバンド、現メンバーは難波章浩氏(ボーカル&ベース)、横山健氏(ギター)、恒岡章氏(ドラム)の3人。90年代後半に海外で流行していたメロコアを日本に定着させ、一大ムーブメントを巻き起こしました。

私は中学生の頃、GREEN DAYというバンドのインタビューを読むために購入した音楽雑誌で彼らの存在を知りました。ジーンズにTシャツ姿のカジュアルな兄ちゃんたちが、英詞でメロディアスなパンクを演奏しているという記事が衝撃的で、さっそく友人たちと「東京さハイスタのCD買いに行くっペよ!」(茨城弁)。電車で2時間近くかけて都内にある外資系のレコード店に突撃し、1stフルアルバム「GROWING UP」をゲットしたのです。

帰宅して聴いた時、それはそれは驚きました。日本のパンクロックといえば、スターリンをはじめおどろおどろしいイメージがつきものでしたが、彼らの歌詞はほぼラブソング。ビートルズやビーチ・ボーイズを彷彿とさせるスピーディかつメロディアスな楽曲が15曲も詰まっており、繰り返し繰り返し聴いたものです。

99年、ハイスタはDIY(Do It Yourself)の精神に基づいてメンバー自らが「PIZZA OF DEATH」というインディペンデントレーベルを設立。リリース第一弾となった3rdアルバム「MAKING THE ROAD」は、大々的なプロモーションをせずに、インディーズでは異例のミリオンセラーを達成しました。このまま順調に活動していくんだろうな…誰もがそう思っていた矢先の2000年、彼らは「AIR JAM 2000」というフェスのステージを最後に活動を休止してしまうことになります。

なぜ活動がストップしたのか。PIZZA OF DEATHの社長になった横山氏は、のちにインタビューで社長業のストレスに耐え切れず精神的に壊れてしまったことを告白しています。その後、横山氏と難波氏の不仲が噂されるようになり、07年には難波氏が自身のブログで「原盤権を3等分しないなら、『MAKING THE ROAD』は廃盤にすべきだ。これは金の話ではなく、作品にこめた魂の話だ」と警告文を発表。私なんかは「ここまで関係がこじれたなら、もう再始動はないだろうな」などと思っておりました。

ところが東日本大震災が起こった昨年、彼らは11年ぶりに「AIR JAM 2011」を開催することを発表します。横山氏は自身のコラムで「音楽じゃ人の腹は満たせないし、電気も作れない。ましてや、放射能に立ち向かえるわけがない」と音楽の無力さを十分に理解した上で、「やる者の心持ち次第では音楽家は音楽を飛び越えることができる」と、その決意をつづりました。

「AIR JAM 2011」は昨年9月18日に開催され、約3万人を動員。横山氏はステージ上で「オレたちは日本を救うために集まったんだ」と、冗談とも本気ともつかぬ照れくさそうな表情でMCをしました。その光景を先日発売されたDVD「Live at AIR JAM 2011」で確認した私、その場にいなかったことを悔やみましたね。正直言うと、ネット上でカネの話でゴタゴタするなんてパンクスとしてどうなのよ…って感じで彼らに失望していたんです。でも、やっぱ復活して良かったですよ。音楽の力、十二分に感じられましたもん。今秋、東北で開催される「AIR JAM 2012」にも期待しております!

ただの空気の振動なのに、音楽ってやっぱりすごいものです。裏チャンではハイスタのようなロック畑のミュージシャンを取材する機会はそれほど多くありませんが、いつも記事で取り上げているAKB48やももいろクローバーZの発するパワーは、どんなジャンルの音楽にも引けを取らない魅力に溢れています。震災後、頻繁に使われる「日本を元気に!」というキャッチフレーズはなぜか虚しく響くことが多いのですが、そんな直接的なメッセージはなくとも、意志のある音楽は日本を元気づける一助になっている…そんな気がする今日この頃です。

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